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2024年09月24日

東京建物見学

先日、出張で東京へ行く機会があり、空いた時間でいくつか建物を見学できたので、今回はそのことを書こうと思います。まず、最初に向かったのは隈研吾さんが設計された「浅草文化観光センター」です。浅草寺の雷門と交差点を挟んで向かいにある建物で、間隔を違えた木製ルーバーで覆われた、勾配屋根の建物を何段にも重ねたような一際目立つデザインで、浅草観光の拠点かつ、シンボルとして非常に優れた建物だと思いました。内部には二層吹き抜けの観光案内所や展示室、展望テラスなどが入り、隈研吾さんが得意とする木製ルーバーや工夫をこらした内装材の使い方が、巧みさを感じさせる和モダンの内装デザインになっています。
 
建築目当ての観光客もいらっしゃるようで、私と同じように階段で1フロアずつ降りながら、各フロアを見て廻られている外国人の方も数名いらっしゃいました。建物自体は階段で降りたかぎり、各階同じ階高、フラットな床で構成されているようで、外観の大胆な構成があまり内部に生かされておらず、少し残念な気もしましたが、建物用途や規模から考えると、仕方がないのかなと思いました。隈研吾さんの建物の中でも外観デザインが一番好きな建物です。
 
続いて向かったのは妹島和世さんが設計された「すみだ北斎美術館」で、こちらは西沢立衛さんとの設計ユニットであるSANAAではなく妹島和世さんの単独設計で、墨田区は葛飾北斎が、長く暮らした土地ということで、この地に美術館が建てられることになったそうです。
葛飾北斎は代表作である「富嶽三十六景」や「北斎漫画」をはじめとして、肉筆画、浮世絵、読本挿絵、絵手本など、あらゆるジャンルの絵を、画風を変えながら死ぬまで追求し続けた、日本美術史における最重要人物の一人で、私にとっても憧れの人物です。異色に思える組み合わせですが、私の憧れ2人の組み合わせということで、以前から非常に訪れたいと思っていました。
 
まず、目に引くのはその外観です。前面に公園があるため街並みに埋もれることなく、それ自体が現代アートの作品のように美しい建物です。少し斜めに傾けられた外壁のボリューム同士が寄り添って建つことで生まれた隙間が、アプローチや光を取り入れる開口になっています。外壁に使用されているアルミパネルやエキスパンドメタルは光を反射し、風景を微妙に映しむことで、周りの環境に溶け込ませる手法として、SANAAが国内外の作品でも多用しているものです。実際に目にして非常に美しいと感じました。
 
建物は四方の色んなかたちの隙間からアプローチし、通り抜けできるようになっています。そこから繋がるエントランスホールは斜めになった壁にさまざまな方向の隙間から入る光が反射して空間を柔らかく包んでいます。透明感のある空間ながら造形は自然の峡谷にも見えました。彼らの建物は装飾を省いたモダンで抽象的な表現と、山の稜線や海岸線がもつ緩やかなカーブや起伏など、自然物を思わせる柔らかな造形との組み合わせが、SANAA独特の柔らかで心地よい空間を生み出しているのだと思いました。3階の企画展示室が準備期間中ということで閉鎖されており、常設展示室しか見られなかったのが残念でしたが、公園と一体になった開かれた美術館のコンセプト通り、タッチパネルを取り入れた展示形式はパズルなどゲーム感覚で、子どもも楽しめる現代的でカジュアルな美術館になっていました。次は企画展にあわせて、再訪してみたいと思います。
 
世界で活躍する一回り上の世代の建築家である、お二人の代表的な作品を見ることができ、背筋が伸びる思いとともに、自分の目指すところもより鮮明になり、非常に参考になりました。
ついでながら、どちらからも東京スカイツリーが望め、東京の風景として完全に馴染んでいるのも感慨深い思いがしました。東京は建築ラッシュで、都心はバブル期のような奇抜で装飾的なデザインの建物や威圧感を感じさせる巨大建築が建ち並び、街並みから美しさが失われているよう感じました。環境が建築のキーワードになり、免罪符のように木材や緑がデザインに組み込まれていますが、あらためて美しいデザインとは何か、街並みとの調和や環境について考えたいと思いました。
(山口 晃弘)